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名入れボールペン、気持ちは変わる

大学の卒業記念として、祖母から印鑑付き名入れボールペンをもらいました。名入れであることは祖母にとって重要で、どこに行っても〇〇の娘であることを忘れないように、とメッセージがついていました。目に見える形で愛を示すことは重大なアイデンティティでした。その重さが、祖母も周りも息苦しくしていました。

大学進学後に使用していましたが、すぐ使わなくなりました。インクの入れ替え方法がよくわからなかったからです。印鑑はしばらく使っていましたが、結婚したため、その用途も無くなりました。もちろんボールペンを使う場面はよくありましたが、やはり消耗品でした。

贈り物なので捨てることもできず、ペンたてにずっと置きっぱなしにしていました。祖母に久しぶりに会ったのは結婚した時です。認知症で、孫のことは分からなくなっていましたが、介護職の夫のことは気に入っていました。職務がら、大きな声で明るく話しかける様子に馴染みがあっただけかもしれないけど、重く立ち込める空気を払い除けたみたいで。

会うといつも物を贈ることで愛情を示そうとしていた祖母でしたが、この時は何もありませんでした。その祖母が亡くなり、しばらく経ちました。大掃除の時に気になったことをきっかけに、インクを入れ替えてみることにしました。当時、ボールペンの説明書などをすぐに失くしてしまい、インクの互換などがわからなかったのですが。

インターネットで気軽に調べられるようになったことで再度インクを購入し文字を書くことができました。重い腰を上げると違う世界はすぐ目の前にあるのかもしれません。名入れに込められた祖母の気持ちを意外と覚えていて、〇〇の娘とか大袈裟なものでもないでしょう、とあの時祖母に軽く笑ってあげられたらよかったのかな。と思いました。

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